《私の本棚 第百十八》 平成19年1月
「ナ ナ」
ゾラ(Emile
Zola) 作
第72号で「居酒屋」をご紹介しましたが、このナナはその続編です。続編とはいいますが、《ルーゴン・マッカール叢書 》(25年間で20編発行) と呼ばれる壮大なシリーズ中の一編です。叢書は一家系の五代に亘る人物を、1850年 代頃のフランス社会に登場させて描きます。登場する人物の職業は、大臣、官吏、代議士、医師、新聞記者、大商人、牧師、画家、技師、炭坑夫、鉄道員、売春婦、洗濯女、肉屋、兵士、百姓などと多彩で、当時の世相を垣間見ることができそうです。 主人公のナナは 「居酒屋」 では日の当たらない薄幸の少女として登場しました。「ナナ」 では金髪と人並み優れた肉体美を持った18歳の女性に成長して登場します。しかも舞台は、フットライトが当たる劇場で裸身に近い衣装です。その日から、次々と貴族の財産を食い潰す生活が始まります。ナナが悪女というよりも、上流階級や貴族階級の男達の愚かさ滑稽さが浮き彫りにされていきます。成人した彼女を主人公にして、フランス社会の完熟というか崩れた世相を描いています。ナナは最後には天然痘で死亡します。 ただ一人 (一体と表現した方がいいのでしょうか) 残されたベッドの上で、膿泡が顔じゅうをうずめて崩れていく様を、確実に描写をすることで、作者の良心というか世相に対する警鐘を主張しているように見えます。 当時の女優は現在とは全く異なり、いわゆる高級娼婦であったといわれています。作者のゾラはこの種の社会的知識が無かったため、友人の協力を得て街角や実際の娼婦の家を訪問したりして綿密な調査をしたそうです。 |
雛形絵馬 |
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