《私の本棚第百三十二》   平成20年3月

          「千羽鶴」
 川端 康成   

 題名の千羽鶴は、前半に何度も風呂敷とその柄というモノとして出てきます。その持ち主である女性も書かれてはいますが、殆ど目立たない脇役です。亡父とその元愛人である女性と、その娘。その女性達と亡父の息子である青年菊治。茶道具や茶室という一見心静かな舞台を仲立ちにして、人の心のどろどろとした部分を表現しながら、千羽鶴によって昇華しています。
 人間の生の記憶は簡単に薄れていきますが、使われていた茶器は冷たい土の塊でありながらいつまでもその記憶を漂わせています。父の記憶と愛人の記憶、愛人の娘からすれば母の記憶やその愛人の記憶をいつまでも残しています。菊治と文子は茶器に誘われるようにして同じ記憶を共有します。 千羽鶴の風呂敷は存在が清涼剤のように扱われ、茶器は破壊によってのみ清められます。昭和二十四年発表の作品です。
 
オリヅルラン、あんな本こんな本






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