《私の本棚 第百十九》     平成19年2月

        「トニオ・クレエゲル」     トオマス・マン (Thomas Mann)

 18751955、ドイツの作家。豪商の家系に生まれたが、父の死後没落。ナチスが政権を取ったあとアメリカへ移住し、その後スイスに移住。1929年にノーベル文学賞を受賞。この作品は1903年に発表された短編小説集 「トリスタン」 の中の一編。自伝小説。

初めの部分は豊かな生活をおくる少年、その後は家の没落と芸術に目覚めていく過程を表現しています。青少年期の揺れ動く心が次の一節によく出ていると思います。

「彼は己の行かねばならぬ道を、ややなげやりな、むらな歩調で、ぼんやり口笛を吹き吹き、首を横に曲げたなり、遠くを望みながら歩いていった。そして道に迷うこともあったが、それはある人々に取っては、もともと本道というものが存在しないからのことだった。一体何になるつもりかと尋ねる人があると、彼はいつもその度にちがった返答をした。なぜなら、彼は常にこう云っていたからである。(そして実際すでにそう書き記していた。)――自分は無数の生活様式に対する可能性と同時に、それが要するに悉く不可能だというひそかな自覚もいだいている――」 と。

 作者は、芸術への強い渇望と同時に、官能の灼熱との間を振り子のように動いていたと思われます。この辺りの芸術家の精神状態を良く表している文章が、岩波書店の図書 (
072月号) の 「強迫性障害 (ピアニスト青柳いづみこ著)」 にあります。
手元の本は岩波文庫昭和
42210日第21刷発行定価★です。訳者後書きは1951年ですから私が3歳の時初版になります。願わくば、哲学書ではないのだからもう少し砕いて訳して欲しかったと思います。

 不遜を承知で、全体としてもう少しこなれた翻訳ならもっと良く伝わるのに…とも。 
臘梅、あんな本こんな本






 蝋梅 
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