《私の本棚 第百四十八》  平成21年6月号

   「つゆのあとさき」  永井 荷風 

   明治12年東京生まれ。つゆのあとさきは昭和6年刊行。 濹東綺譚の方が有名でしょうか。若き日の津川雅彦氏が主演する映画を見たことがあります。この作品の解説者武田泰淳氏によると、荷風は 「愛すべき日本の女を発見し続けた、彼の死にいたるまで無数に発見し続けるために努力した」 と書いています。そのことで破綻せずに、しかも小説を書いてものにするなどとは、ある意味で羨ましいとも言えます。
 確かにこの作品の中にも様々な女性が出てきます。君江という女給が主役なのですが、登場人物は変わった人が多く、際だった主役でもありません。皆それなりに苦労をした女性たちです。男性もそこに関わる人間ですから、表街道というほどの事ではありません。君江と深く関わる男が清岡進という文士ですが、荷風はこの男をつまらなくて、下世話な文章を書いて一時的に一寸売れたエセ文士として扱っています。
 作者の表現の中に、私はふっと樋口一葉のことを思い出しました。一葉は明治24年19歳の時に半井桃水 (なからいとうすい) の手ほどきを受けて、女流作家への道を踏み出しました。後に名作を残したのですが、この半井桃水と清岡進を重ねてしまうのです。活躍した時期からしても、そうであっても不思議ではないと思います。
 余談ですが石川さゆりさんの歌に 「一葉恋歌」 というのがあって、作詞は吉岡治氏です。この歌がその辺りの事情を表しているのでしょう。
 陰湿さを感じません。そういう人たちもいるよなぁ、そういう世界もあるよなぁと、私の知らない世界 (残念ながら本当です) を垣間見ることができました。
 私には斬新的に感じます。  
三室戸寺、あんな本こんな本







 三室戸寺
 
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