《私の本棚
第百十七》 平成18年12月
「きみはダックス先生がきらいか」
灰谷 健次郎 作
1934年神戸市生まれ。大阪教育大学卒業後17年間の小学校教師生活を経て沖縄やアジアを放浪の後、作家となった。1974年の 「兎の眼」 が超ベストセラーになり、日本児童文学者協会新人賞を受賞。淡路島や沖縄・渡嘉敷島で生活。 2006年11月23日没。 これまで氏の作品を読んだことはなかった。ただ、若い頃に月刊 「国文学」 でその名を知っていただけです。何しろ 「兎の眼」 が発表された頃は私は26歳で、そういう本を読む気持の余裕はなかったように思います。亡くなる凡そ1ヶ月程前に、「私の本棚」 で紹介しようと思って図書館へ借りに行きました。その時は何かしら都合がつかなくて、読まないまま返却してしまったのです。新聞の記事を読んで、慌ててもう一度借りに行きました。 いいですね、この物語。これはご自身の経験でしょうね。教師と児童、大人と子供の関わりについて、一つのあり方を示しています。表面上の行動も何かしら子供なりの理由がある。それをしっかりと見極めて指導する。否、指導するというより、人としての道を踏み外さないように見守っています。この中には必要な人物は皆出てきているように思います。家庭教師がついていて塾も行く子供。「あの先生ではねえ」 と子供に言う母親。いじめっ子といじめられっ子。収入を確保するために夕食を作れない母親を助ける悪ガキ。入院中のお母さんの代わりに毎日の食事を作る女の子。知恵遅れの女の子。そしてダックスとあだ名された見栄えの良くない先生。子供達はいつの間にか、他人への思いやりの心を会得していきます。 亡くなられた数日後、いじめた子供に社会奉仕をさせようという動きを新聞が報じていました。ん・・・?それがいじめ問題の解決策なの?。社会全体があまり健全でないような印象を受けるのは私だけなのでしょうか。 でも灰谷さん (敢えてそう呼んでみましょう)、教師生活の17年間は大変だったでしょう。特にお終いの頃はバブル期にさしかかり、本当にあるべき教育を実践するのは至難だったと思います。しかし氏は、文学を通じて子供を感化する術を手にいれられました。今後も多くの子供の心に訴えかけていくことでしょう。 |
菊人形 大阪府枚方市 |
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