こぶたろうさんとの出会い

                           為せば成る

それは不思議な動きをしていた。先ほどから自分が想像していた物の揺れ方、あるいは静止の状態でもない。確かに自分よりかなり遅い速度ではあるが前進している。しかし普通は、あの位置で動くように見えることはない。何だろう、まだ距離があって咄嗟には判断がつかない。 およそ後方十メートル位まで近づいた時、二本ある事に気づいた。しかも腕が円を描くような形で前後に動いている。リカベンドでは無い!。後輪が二本、足ではなく手でペダリングしている。
併走して話しかける。
 「こんにちは、これは何ですか?」
 「手こぎ自転車です」 と明快。
 どうしてまた、こんな変わった物に乗る気になったのかと思いながら、
 「わたし、これを見るのは初めてです」 と言うと、
 「日本にはまだ一台しか無いそうです」
 という返事が返ってきた。
一寸止まってくださいとお願いをして、話を聞くことにした。すると、立ち上がった彼は二分脊椎症で腰から下が麻痺しているという。それで、足が動かないから手こぎ自転車で日本一周をしているとのこと。気持ちよく走れるのは一日で80qまでくらいと言うが、それだけ走れれば十二分だ。しかも日常生活的には何とか歩けるという。医者も首をかしげているらしい。話しながら、言い訳という言葉を思い起こしていた。足が麻痺しているからこそ、自分の力で日本一周をしてみたいという思い。彼のその強い思いが、私を手こぎ自転車に乗る彼に巡り遇わせてくれたともいえるだろう。時には言い訳をしていた自分が恥ずかしい。


   為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり

 無事故で元気な彼の明日を祈ります

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上の文章は4月30日の思い出を綴ったものです。その四日後、あり得ない偶然で再会しました。その不思議な話は2010年の5月頃には 「新潟県村上市から青森県青森市まで」 のサイクリング記録でご紹介する予定です。 
こぶたろうさん 手こぎ自転車.、あんな本こんな本


2009/4/30、12:42

山形県、酒田市内を過ぎて、おけさおばこラインにて


 
こぶたろうさん 手こぎ自転車、.あんな本こんな本


 2009/5/4、 20:30


 
青森市、Hルートイン青森駅前のフロントにて



2024.03.09 追記 
「こぶたろう」さん事 神原さんは その後優しい女性と巡り逢われ 長男・長女にも恵まれて 幸せに暮らしておられます。
今も賀状交歓をさせて戴いております。
 
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