《私の本棚 第百七十八》   平成24年1月

     「越中前司最後(えつちゆうのせんじさいご)
                           平家物語 巻第九より

 

 昨年の一月、第百六十六号に続いて平家物語のご紹介です。偶然、今年からのNHK大河ドラマも平清盛です。

一ノ谷の合戦、義経の鵯越でも有名なこの戦に措いて、卑怯な一騎打ちがありました。 義経の逆落とし攻撃で意表を突かれた平家は総崩れ、生田の森や一ノ谷の海岸線 (須磨辺り )は猛攻をかけられていました。武藏国司であった平和盛以下の者達は我先に落ちていきます。鵯越の麓を守っていた侍大将である越中前司盛俊は落ち延びる術が無い事を悟りここを死地と覚悟します。踏みとどまって敵を待つところへ、良い相手がいるとばかりに源氏方の猪俣小平六則綱 (いのまたのこへいろくのりつな) が向かってきます。
 この場所で一騎打ちが始まりました。猪俣は東国に聞こえた剛の者で、鹿の角をたやすく折るという力持ちです。一方の越中前司は六七十人で揚げ降ろす船を一人でやってしまう怪力です。互いに馬上で組み合って落馬しますが、猪俣は簡単に組み敷かれて身動きがなりません。このままでは首を取られると思った猪俣は、「お前は俺が名乗ったのを聞いていないだろう。名も知らぬ敵の首を取ってもつまらぬこと」 と相手の油断を誘います。勝負あったと気を抜いた平盛国の子である越中前司は自分を名乗ります。 猪俣も名乗った上に 「源氏方の勢いは強く、平家の旗色は悪い。自分を助けてくれたら貴方の手下の者共々助命を上申します」 と言います。越中前司は怒り心頭に発し首を取ろうとしますが、猪俣は 「降参している者の首をかくのですか」 とたたみ掛けます。それも一理あると考えた越中前司は相手を引き起こして畦に座ります。
 そうこうする内に、源氏方の武者が一騎近づいてきます。越中前司が注意をそちらにとらわれている隙に、不意に猪俣が越中前司を泥田へ 突き倒し相手の刀を抜いて刺した上、首を取りました。猪俣は大音声に功を名乗り、その日の高名第一に記録してもらいました。
 当時の戦にはいろいろと暗黙の了解があり、それを破るようなこともあったはずです。例えば船の漕ぎ手には攻撃しないとか、馬は射ないとか。しかし漕ぎ手を攻撃しても馬を射ても卑怯という表現はしっくりしせず、過去にとらわれない新戦法とも言えます。しかし猪俣の高名は単なる騙し討ちであり、それまでの彼の生き方やその後の処世をも想像するに難くありません。こういうのを鮟鱇武者とでも言うのでしょうか?。平家滅亡(寿永四年、1185年)から凡そ30年後 (後鳥羽院時代) に書かれているので、ほぼ実話と思われます。 この段を琵琶で弾き語る前に祗園精舎の段を弾き語ってもらうと、非常にピッタリのものになると思いますがどうでしょう。


     祗園精舎の鐘の聲、諸行無常の響きあり。 沙羅雙樹の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす。

     おごれる人も久しからず、只春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に 風の前の塵に同じ

 さてここからは読書感想ではなく、解説文の受け売りです。読んでいるのは、岩波書店・日本古典文学大系に収められた二冊です。

【作者について】
 一番古くかつ具体的に書かれているのは、徒然草 (1310年から1331年に著す) 第二二六段の記述。これによると後鳥羽院の時代に慈鎮和尚 (大僧正慈円) が信濃前司行長を一芸有りと見て生活の面倒をみていました。行長は平家物語を書いてこれを東国生まれの生仏という盲目の者に教えて琵琶の弾き語りをさせたのが始まりで、今 (徒然草を書いている当時) の琵琶法師はこの生仏から教えてもらったと書いています。

【扱うテーマ】
 重要な主題は戦です。個人的な武力抗争、氏族間の闘争、国家内乱などあらゆる種類の武力闘争が主題です。一方で民の戦への恐怖心も語られています。平家の全盛時代は、何か事を起こせば必ず潰されると信じられていたが、最後には平氏の領袖達が数珠つなぎで京都市中を引き回しの後首を刎ねられます。一般の民達は大きな言い尽くせない衝撃を受けた事でしょう。

【叙述様式】
 年月の順序を追って記す編年体様式と年月の順序を無視して伝記風に挿入記述する紀伝体様式を混ぜています。つまり、現在進行形で話をしている中へ、読者である私に知識の無い時代名を記して織り交ぜます。登場人物の多さと相まって読みにくさもあります。何やら今の政治世界の様相とも重ねてしまいそうな物語です。NHKの大河ドラマを見ながら平家物語を思い出したいと思います。
 
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